幕 間




「ねぇねぇ!これ!」
そう、藤代が取り出したのは安っぽい紙で出来たピンクの箱だった。

何をするわけでもなかったが、たまの休みの日、練習の早かった日、そんなときに集まるのが多くなった。
話題を提供するのは大抵藤代か佐藤。
水野と三上の激論を皆で冷やかすこともあるし、間宮が来る時はいちいちびくつきながらそれを隠そうとしている渋沢を何とか間宮の手にするペットに近づけようと画策することもある。



今日の話題提供は藤代の番らしい。
「藤代くん、何?」
「こないだゲーセンの景品でゲットしたんだけどさぁ」
風祭の問い掛けに藤代は箱を眼前に構える。
お粗末ながら覗き穴と小さなレンズ。
「レンズつきフィルムか」
「そっ。……って何?」
「インスタントカメラやて」
「何だ、そう言ってよ」
佐藤の説明にやっと理解した藤代は、気を取り直したようにカメラを構える。
「最近デジカメばっかでこういうのってなかなかなくない?ってことで今日はなくなるまで記念撮影〜!」

ぱしゃっ

最初にレンズを向けられたのは渋沢と三上。
「いいっすよね?先輩たち?」
「勝手に撮っておいてなぁ……!」
「ぎゃあっ」
青筋を立ててさすが名門校の司令塔とばかりに素早く藤代の首根っこを掴んだ三上に、藤代は大袈裟に叫びながらカメラを佐藤にパスする。

ぱしゃっ

「お〜、えぇアングル!」
「体張ってるから!って!いたっ!痛い先輩!」
ヘッドロックを掛けられながらも目元に指を構える藤代。
「後輩虐待の図!」
「うっせぇ!」

ぱしゃっ

だが今度の被写体はくるりと背を向けて水野と風祭に移る。
「ひどっ!」
「いじめの現場の証拠は残さんようにせんとなぁ」
「ははっ。貸してみろ、そっちも写してやるよ」
カメラは巡って渋沢の手に。
風祭を囲むように集まった桜上水のメンバーを、渋沢はカメラを構え…。
「…あれ?」
「渋沢さん、巻いて巻いて!」
「あ、あぁ」
指摘され少し照れながら渋沢は再度構え直す。

ぱしゃっ

「じゃあ今度は僕が写します」
「よろしく」
「はい、チーズ!」

ぱしゃっ

「”チーズ”とは”ちー”のときの口の動きが笑みに似ているから使われる言葉だ。”ず”で写しては意味がないぞ」
「え?そうなの?」
「気にしない気にしない。間抜けな顔大歓迎!」

ぱしゃっ

「笠井と間宮が来れなかったのが残念だな」
「…間宮を撮ったら誰かがいなかったり余計なものが写ったりして…」
「……ははは……。…洒落にならないからやめろ」

ぱしゃっ

代わる代わるカメラマンを務めながら、フィルムは順調に減っていく。
「自動シャッターがないのがなー」
「ゲーセンの景品なんだろ?贅沢言うなよ」
「全員で写れないからね」
構えた水野が呆れれば風祭は残念そうで。
「じゃあやっぱこれ?」
藤代はにんまり笑い、水野からカメラを奪うと手を伸ばして自分に向ける。
「皆後ろ〜!」
「おっしゃ!皆ポチにあわせぃ!」
「どうせ小さいですよ!」
「渋沢しゃがめ。限りなく空気椅子だ」
「全員入るのか…?」
「このカメラのレンズのサイズとファインダーから推測するとここから…ここの範囲ならば全員の映写も可能だ」
「じゃあその言葉を信じて」
「いっきまーす!1たす1は〜?」
「「「「「「にー!」」」」」」

ぱしゃっ








「あと何枚残ってる?」
「うーんと…3枚…かな?」
「じゃあ最後はポジション別で!」
言いながらまず藤代はMFにカメラを向ける。

ぱしゃっ

嫌そうな顔をしながらそっぽを向いている2人で1枚。

「次はFWな」
「貸せよ。撮ってやる」
「タツボンよろしく〜」

ぱしゃっ

一転にこやかに3人顔を寄せながら1枚。

「ラス1はGK!」
「あぁ、よろしくな」

ぱしゃっ

最後の1枚。

撮り終わったのを見て、三上は呆れて肩をすくめる。
「だらしねぇ顔…」
「え?」
「わっかりやすいやっちゃなぁ、旦那も」
「何?」
佐藤も肩を震わせながら笑いをこらえ。
「すっごい、嬉しそうでしたよ!」
「写真が出来上がったら自分で確認してみたほうがいいですよ」
「俺皆に配っちゃおうかなぁ」
風祭が感心し、水野がそっと忠言し、藤代がちゃかして。

「…現像は俺が出す」
そこまで言われるのなら、と渋沢が苦笑いを浮かべながらカメラを取り上げる。
「えぇっ?!最後の1枚抜き取るのなしっすよ!」
「藤代だったらあのガタクタの山に転がしたっきり忘れそうだからいいんじゃねぇ?」
「焼増しお願いしますね!」
「こっちも頼みます」
「まず見てから考えるわ」
「了解」

渋沢はカメラを大切に握り締めた。





── きっとこれは良い思い出になるだろう。



















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