「・・・そうか」
電話での連絡に、冷静に受け答える姿が、あまりに自然な違和感で。
我ながら冷徹な人間だと思う。
「・・・いつまでへこんでいる気だね」
自分以外誰もいない部屋。
感情を吐露したとしても誰も文句を言いやしないのに。
呟くのはいつか近い過去に強く幼い兄弟にかけた言葉。
「これしきのことで立ち止まっているひまがあるのか?」
狗よ悪魔よとののしられようとも。
約束したのだ。
この道を選んだ二人で。
迷うな。
悔やむな。
そう、誓ったのだ。
「決めたのは我々なのだから」
覚悟はとうに決めていた。
この道に足を踏み入れたならいつ尽きるともつかない命。
無駄にはしない。最後まで足掻いてみせるとしても。
ならばせめて。
迷わぬよう。
悔やまぬよう。
彼の手には小型の隠し刃物が握られていたと言う。
「・・・だが我々はちっぽけな人間だ」
兄弟の言葉を借りる。
悪魔でもましてや神でもなく。
握られていた刃物は彼が迷ったしるし。
彼の最期の言を聞き取れたかもしれぬのを悔やむ自分。
「鋼の もなかなかいいことを言う」
人間なのだから。
誓いは破られる。
約束は反故される。
ちっぽけな人間は、そんな簡単な誓いを守ることすら難しく。
だがこれ以上反故するわけにはいかない。
ひとつめは同時期だからお互い様だとしても。
彼はもう悔やむことはないのだから。
「あいつに負けるのは癪だからな」
そんなことになったら。
いつか会ったときにしつこいくらいにからかわれてしまう。
これしきにことでは、彼がいなくなったくらいでは迷いはしない。
「見てろよ」
これからもどんな選択があろうとも、迷ってなどやるものか。
「さっさと戦線離脱なぞしやがって」
むりやり納得してでも進むしかない。
固く握った手だけがその感情を知らしめて。
END
This Edition : 200210150100
あの人は泣いたり落ち込んだりはみせないかなぁと思ってたんですけどね・・・。
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