頭を抱え込まれた。
何をすると文句を言おうと思ったが、存外に強い力を込められて、結局言葉は外に飛び出しはしなかった。
同じような光景があったような気がする。
あの時も、自らの力の強大さに初めて恐怖を感じたあのときも。
違う背格好の、声の、匂いの、体温の、でも同じだけの力を込めて、男は言ったのだ。
「泣けるんだったら泣いちまえ。ったく、おめぇも世話がやけるよな」
誰が泣くか、と返したような気がする。
感覚だけが覚えていて、実際その記録は曖昧だ。
「意思じゃねぇ。可能かどうかだ。まだ留めるな。泣きたくても泣けなくなるときが絶対にくる」
放して欲しくて顔の横にあった腕を強く握り締めた。
こんなことくらいでは壊れはしない人間の体は思うより随分ともろい。
競うように抱える腕にまた力が篭り、子供をあやすように背中を叩かれた。
あのときは、結局どうしたか。
囁かれた言葉だけは覚えている。
「・・・あぁ、まだ貴方は大丈夫だ」
違う背格好の、声の、匂いの、体温の、でも同じだけの力を込めて、男は言う。
そうして結局自分は同じことしか返せないのだ。
進歩がないと笑うのならば嘲うがいい。
それでも、過去も今も大丈夫だと語りかける男に。
「黙れ」
黙殺を要求した。
END
This Edition : 200211271957
ふと書きたくなったので。今さらネタ。
|
|