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初遭遇。  


呼ばれた社長室に赴いて、まさか出くわすとは思わなかった。
エレベータの扉が開いた途端まるでネコみたいに髪を震わせたのが見えた。
くるりと自分の方を向き、それで誰であるのか直人はすぐに理解する。
良く似たきつい眼光で見つめられるとどうにも落ち着かなかったが。
彼が、きっと彼なのだろうと。
「こんにちは」
「・・・」
まだ幼さが残るその顔は、初めて会った頃の京介にも負けないくらい無表情だった。
少しは京介で馴らしたつもりだったから、ひるまずに笑顔を向ける。
「僕は小林直人。京介の友達なんだけど・・・」
「おれの名は不破大地」
”友達”という言葉に反応して視線が不躾に上下する。
こんなところも京介と変わらないな、と直人は苦笑を浮かべた。
「京介に呼ばれて来たんだけど、京介は?」
「緊急の会議とやらに参加している」
「そっか」
これもままあることなので、直人はあまり驚きもせずにうなずいた。
京介の友達を続けていくと決めた時点で彼の特殊事情もある程度受け入れようと思ったから。
こうやって約束を変更されたとしても早々目くじらは立てない。
「大地くんも京介に呼ばれて?」
「そうだ」
「いつくらいから?」
「会議開始頃から」
端的に進んでいく会話も、まるで京介と話している時のよう。
「・・・本当にそうなんだなぁ」
京介の側に控えている秘書の人にこっそりと聞いた時の彼の評価は当たっているようだった。
気になっていたのだ。
あの京介が、彼の名前を出す時だけはちょっとだけ違っていたから。
「・・・そろそろ戻るぞ」
「え?」
彼は耳からイヤホンを外して、テーブルの上に置いた。
どういう意味かと計り兼ねていたら、重々しい一枚板のドアが開いた。
「二人とも待たせたな」
高質のスーツに身を固めた京介と秘書が現れる。
上着を秘書に渡し、軽くネクタイを緩めるさまを眺めやりながら直人は苦笑する。
「今日の用件、何かと思えば、これなんだろう?」
「ほう。直人の割には察しがいいな」
「割にはってなんだよ」
言いながら京介は彼の元に歩み寄る。
ソファに座ったまま京介をじっと見つめている彼の頭を、京介はくしゃりと撫ぜた。
「どうだった」
「A社の動向が気になるな」
その言葉だけで京介は納得したようだった。
「後でゆっくりと聞こう」
「了解した」
微かに目を細め、京介は彼を見ていた。
そんな顔を今まで見た事はなかったから少しだけ驚いた。
「京介もそんな顔するんだなぁ・・・」
「何がだ?」
視線を向けられた時には、既にいつもの京介の表情で。
いつもと違うのは同じ視線を京介のちょっと下から受けているくらい。
直人は首を竦めて二人に笑う。
「大地くんがかわいくて仕方が無いって顔だよ」
「・・・?」
二人で首を傾げられて、直人は後ろに控えていた秘書と目を合わせてまた笑った。
「大地くんに会えて安心した」
またひとつ友達の大切な一面を見られたことが。
直人は詰め寄られても答えられない安心感に、苦笑するしかないのだった。


END

This Edition : 200105221350








2001年にXコネ新作をやると解ってうかれて書いたもの。
なので直人の性格がXコネ2001とは多少違います。

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