paradise of miniature garden -序章 3-






新しい期が始まった。
この学院は、特にクラス分けがあるわけじゃなく、それぞれが自分に見合ったスキルを手に入れるために講座に登録していくことで大体の区分けが出来る。
既にある程度のスキルを身に付けているものは3つのレベルに分かれている講座のどの級、例えば上級であっても、受講することが可能だ。
それにはもちろん受講のための試験があり、クリアしないといけないわけだが。

だから全ての回生が集まって、登録していく様は一種独特だ。
新しく学院に入った若者が、上位の回生に睨みをきかされながら上級に登録しようとしていたり、また一度受講したスキルでももう一度初級からやり直し、の者もいる。

いざこざが絶えないのはそのせいもある。
上級生、下級生の諍いはもちろん、貴族の連中と市井の連中はここでも相容れず、自分がやりたいことがあるなら、何も考えずに登録すればいいものの、見栄や損得から自分には合わない講座に登録…もあるらしい。

俺は大きな騒ぎにまで発展しないようさりげなく目を配りながら、渡されたリストから自分の受講する講座に登録をしていった。

神学は今更というところもあるが、他の宗派の考えも聞いてみたくて上級を選択する。
一般学も教養として必要だろう。
薬学は今後を考えると知っていたほうがいい。

そんなことを考えながら受講手続きのために名前を告げていく。
大抵は試験なしの特待として通るのは、きっとこの渋沢と言う名前のせいだとは解っているが、今更何を不満にしようものか。
この街にいる限り離れられないのなら、意識する必要もない。

そうして俺は、最後に剣術一般の講座の前で立ち止まる。

一回生のときは受講できなかったここ。
出来なかった、ではなく、しなかった、が正しい。

教養としての剣術は、既に貴族である父から教わっていた。
だがここで学ぶのはさらに実戦に則した剣術。
腕に自信がなかったわけではないけれど、神官として生きていくだろう自分に自信が持てなかったのは確かだ。

でも今では。
気持ちは固まっている。
俺はいつか冒険者として外の世界に出て行きたい。
家業を継がないとは言わないが、それでも見聞を広めたい…と言えば聞こえはいいだろうか。
それには剣術は必ず必要になるだろう。
親がそれを許さなかったとしても。

神義に背くわけでもないから、後ろめたさを感じる必要もないはずなのだが。
俺は慎重に、その講座の内容を読み解いていった。
自分は初級か中級か、きっとそのあたりだろう。
一度特待を断って試験を受けてみてもいい。

そう思いながら受講希望の書類に名前を記入しようとしたとき。

「あぁ?」

唐突に掛けられた、本当は俺に向かって掛けた声ではないのかもしれないけれど、そんな呟きに振り向いた。

「……なに。テメェ剣術取るの」

そこにいたのは三上だった。
俺がここに立っているのが心底意外なようで、まじまじと俺の顔を見ている。

「ん?あぁ、俺の教義では剣を禁じてはいないからな」

俺は肩をすくめて答える。我ながら言い訳じみた言葉に、苦笑いを浮かべそうになった。
三上はそんな俺の答えに満足していないのか、まだ言葉を続ける。
「でも、なんだっけ、あっちにいた奴、あれも同じ教会出だろ?」
指差されたのは確かに同じ教義を持つ同級生。三上がよく知っていたものだと思いながら俺はまた答える。
「禁じてはいないが強制もしていない。好まないのにする必要もないさ」
「ふぅん……」
今度は納得したのか、途端に興味のなさそうな顔に戻って、三上は俺を押しのけて剣術の中級の欄に名前を書いた。
「ん」
「あ、あぁ。ありが…」
無造作にペンを差し出されて、俺が礼を言う前に三上はさっさと次へ行ってしまう。

一体なんだったのかと首を傾げようとしたが。

そう言えば三上から声を掛けてきたのは今が初めてだと思い当たる。
目を合わせて会話したのも。

もしかして俺が思うほど三上は俺に構えていないのではないか。
そんなことも考えて、俺は苦笑した。
たったこれだけでそれは都合のいい考えだろう。

そう思いながら。
俺は剣術の受講欄に名前を書いた。

選んだのは三上と同じ中級だった。




This Edition : 200412040233




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