舌打ちすら億劫なほど、不破は体力を消耗していた。
迷走しかけた思考を無理矢理繋ぎ、頭に入れてあるこの辺りの地図を思い浮かべる。
山中にあってはどんなに小さな村でもあと半日は掛かるだろう。


しばしあることだった。
そろそろ時期だろうと警戒はしていたが、ここまで周期が早まることは未だかつてなかった。
何が原因か、などと考える思惟力は今の不破にはない。
予兆があり急いでいたせいで、ここは道なき道だ。
あるのは鬱蒼と茂る木々と少し外れてむき出しになった山肌。
ここは森と言ってもいい。
あるいは同胞に助けを求めることも可能ではあったかもしれない。
だが不破にはそのような考えは思いつきもしなかった。
不破にとって精霊種(エルフ)は違胞であり、また逆も然り。
声を掛けるべきものではなく。
あくまで無為を装うか、それともものとも思わぬ視線を投げかけるかどちらかでしかない。
依存はなかった。
自分が異端である自覚はあった。
だから不破は助けを求めない。


熱があるのだろう。
眼前が水の膜で歪む。
これ以上酷くなる前に休める処が必要だった。
不破は何度か熱に足を取られながらも山肌へと進む。
木々の傷を見る限り、ここは大型の動物の生息範囲ではなさそうだ。
メイジスタッフを構えるのももどかしく不破は「イリュージョン」を唱えた。
山肌が自然な形のまま、2mほど膨らむ。
どこかに横穴があればよかったのだが、探すだけの手も掛けられず。
不破はそこに倒れこむ。
まるで岩に飲み込まれるように不破の姿は消えた。これで気まぐれな動物が通らない限り見つかることも無い。
ようやく安堵の息をつき、不破は目を閉じた。
頬に当たる土が冷たく心地よい。
水が飲みたかったが、水袋に手を伸ばすだけの気力は残されていなかった。
問題ない。
熱はノームが取り去ってくれるだろう。
それまでこうしていれば。



ただ雨が降らなければいい。
不破は最後にそう考えながら、眠りに落ちた。



その姿は誰にみとめられることもなかった。





END
This Edition : 200306101542




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解説
「イリュージョン」 魔法 / ソーサラー / Lv.5
視覚と聴覚に働きかける幻覚を作り出す。期間は術者が望む限り永続。
実際に触れることは出来ない。

「ノーム」 精霊 / 大地の精霊
自然の地面が露出しているところ・岩・地中などに宿るエレメンタル