| アンテナ |
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そろそろこの街で祭りが始まるから、街の中はとっても賑やか。 みんなそわそわしていて、時間が経つのを今かいまかと待っている。 そんなとき僕が飛び跳ねていても誰も気に止めもしないから、僕は思う存分アンテナを動かす。 あ、アンテナって言うのは、僕の耳があんまりにもいろんなものを聞いて拾ってくるから仲間に「お前の耳はアンテナみたいやな」って言ったからなんだけど、それ以来僕の耳はアンテナなんだ。 僕にはアンテナがどんなものなのかよく解らなかったけど、笑ってくれてたからきっといいことなんだと思う。 だから僕は嬉しくなっていっぱいいっぱいアンテナを使うことにしている。 大通りにある出店はなにか、開かれる催し物にはなにがあるか。 楽しいことをいっぱい集めて皆に聞かせてあげるんだ。 絶対笑ってくれるから。 僕は飛び回る。 ぴくり。 と、僕のアンテナが反応した。僕は耳がいいからちょっとした音だって聞き逃したりしない。 聞き覚えのある声。 すごく懐かしい。 僕は慌てて振り向いた。探さなきゃ。残念だけど僕の背はやっぱり人間よりは低いからちょっと離れるとすぐ見えなくなっちゃう。 すばしっこいのには自信があるから、きっと背はそれのかわりなんだろうけど。 そうだ、考え事してる暇なんてないんだ。 あの声はきっと。 「お!風祭じゃん!」 「やっぱり!若菜くん!」 すごいすごい!僕は飛び跳ねて声を掛けてくれた人に寄っていく。 彼も僕に気付いてくれたんだ。こんな素敵な偶然嬉しくて仕方が無い。 「へへっ、なんか懐かしい匂いがしたからさ」 そうやって若菜くんは鼻を擦った。 僕が耳がすごくよく利くのと同じくらい、若菜くんは鼻が利くみたい。 それもそう。 だって若菜くんは人間じゃなくって「ハングイヤー」って言う種族だから。 すっごくすごく珍しくって、初めて見たとき僕がうっかり飛びついちゃって、そのとき以来仲良くしてくれてる。 顔は人間や僕たちと一緒。ただ耳が犬のように大きくって垂れていて、聞いてみたら尻尾もあるって。 走るのは速いし(僕には敵わないと思うけど!)匂いにも敏感。 ずっと会ってみたかった種族だけど、若菜くんに会ってからずっと好きになった。 「久しぶり!いつからこの街に来てたの?」 「2・3日前かそんくらい。ほら、お祭りがあるだろ?」 「そうだよね!楽しみだよね!ここのお祭り大きくって楽しいって宿屋のおじさんも自慢してたから、きっと若菜くんたちも楽しみだと思うんだ!あ、今回もいつもの宿なのかな。知ってたほうがいいよね。そうそう、あっちに美味しそうな出店も出てるし遊戯もいっぱいあったよ。それからね、最初の日には武術大会があるし、あ、そうか」 僕は嬉しいのをいっぱい伝えようとして、やっと思いついた。 「皆は?元気?今回は一緒に来てるの?せっかくだから一緒に楽しんでもらいたいんだけどな」 「やーっと気付いたか、このお気楽グラスランナーは」 え?え?なんだろう、若菜くんはすごく悲しそうな顔をした。元々垂れている耳が益々大人しくなってしまって。 どうしたんだろう。皆どこに行っちゃったんだろう。 聞いていいのかな。聞きたいな。でもこんなときアンテナを立てちゃ駄目だって、兄さんも言ってたから。 ぐっと我慢して僕もしおれていると。 いきなり若菜くんは笑い出した。 「じょーだんだよ!冗談!お前の耳まで垂れちゃってどうすんだよ」 「え?僕の?!」 慌てて僕は耳を引っ張り上げた。大切な大切な僕のアンテナ。 若菜くんのはかっこいいけど、僕の耳は垂れても全然かっこよくない。 そんな僕をみて若菜くんはまた笑い出す。 「たとえばだって。お前の耳はいつでもまっすぐ伸びてるよ」 「なんだよ!もう!」 怒った振りをしたかったけど、安心して僕も笑い出してしまった。 ひとしきり二人で笑ったあと、僕たちは出店の準備をしているおじさんにジュースを分けてもらって(珍しい組み合わせだからってただでくれた。すごいな若菜くん)少しだけ静かな路地に入った。 そこで若菜くんはみんなの話をしてくれる。 「カズマが武術大会に出るって言うから、エーシはそれのお守りに行ったんだ」 「真田くんが?すごいなー!頑張ってるんだね!あの武術大会ってレベルが高いって準備してた人も言ってたよ!」 「すごくねぇって。ぜーったい無理だもん」 「無理じゃないよ!駄目だよ仲間がそんなこと言っちゃ!真田くんも頑張ってるんでしょう?応援してあげなきゃ!あ、僕もちゃんと応援に行くからね!」 仲間が武術大会に出るなんてこんなに素敵なことなのに、若菜くんはあんまり嬉しくなさそうだったから、僕は少しでも若菜くんが元気になるように大きく手を広げた。 若菜くんは鼻の頭を少しだけ掻いて笑ってくれる。 「頑張ってるから問題なんだよなー。ま、どうしても危なくなったら反則でも何でもエーシが止めるだろうからいいけどな。俺は冷やかし担当ってことで」 「応援担当!」 「はいはい。応援な、応援」 あんまりそんな気はないみたい若菜くんに、僕だけは絶対応援してあげようって心に決める。 そしたら若菜くんが、ジュースを飲みほしたらしくって地べたに座っていたのが立ち上がる。 「さって、そろそろあいつらとの待ち合わせの時間かな」 「そうなの?ごめんね引き止めちゃって。僕久しぶりに会ったから嬉しくって誘っちゃったけど若菜くん別にいたってことは何か用事があったんじゃないの?」 「声掛けたの俺からなんだけど?」 「あ、そうか」 「変わってないなー。お前も」 笑いながら若菜くん僕の頭をぽんと叩いた。 「久しぶりにグラスランナーの本領が見れて楽しかったって」 「本領?」 僕はアンテナのことかと思って耳をちょっとだけ動かした。 でも若菜くんが言ったのは全然違うこと。 「そのどこで止めればいいか解らないトーキング。拝聴いたしました」 「なんだよ!もう!!」 また僕たちは笑い出す。 こういうとき僕たちはちょっとだけ仲がいい。お互い少ない種族って言うのもあるのかもしれない。 いつも笑ってて、皆に不思議がられるくらい。 それで皆も楽しくなってくれるなら、一緒にいたっていいと思うんだけど。 「あ、三つ鐘が鳴ってる」 僕のアンテナが普通は聞こえない遠くの鐘の音を拾った。 「あぁ、なんか探してるな、この匂いは」 若菜くんは仲間の匂いを探し当てて。 「絶対応援に行くからね!宿にも遊びに行くから」 「言っとく」 仲間のところに帰っちゃうんだ。 手を振って、走っていく若菜くんを僕は少しだけ寂しくなって見送った。 僕だっていつもいつも笑っているわけじゃなくって、寂しいときも悲しいときだってあるんだ。 でも。 僕のアンテナがまた反応した。 声が聞こえる。 僕を探している声。 なかなか戻らないから心配してきてくれたのかな。 そう思ったら、僕は嬉しくて飛び跳ねたくなった。 若菜くんと一緒にいるのも楽しいけど、僕にだってこんなに素敵な仲間がいて。 間違えない耳がきちんと僕の「嬉しい」を拾ってくれるから。 僕のアンテナはやっぱりすごいって、ちょっとだけ胸を張った。 END This Edition : 200306160628 |
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