真昼間のストレンジャー





文句を言いに行ったはずなのに、逆に仕事を渡されるとはどういうことだろう。
「ほんま人使い荒いやっちゃなぁ・・・」
ひとりごちながらシゲはため息をつく。



大概の依頼はこなせるつもりだったが、流石にあれはひどかった。
こちらのパーティ編成を知っていてあれを回してきたのなら自分じゃなくても文句のひとつも並べたいはずだ。
あの状態を知っていて回したのならこちらに犬死にしてこいということだし、知らずに渡したのなら完璧な調査不足だ。
未知の遺跡を探索する依頼ならばともかくも、既に探索済みの場所だったのだから。
死ぬのが怖くて冒険者などやってられないが無駄に野垂れ死ぬつもりだってない。



・・・と。
言いに行った先で、丁度良いとばかりに渡されたのは仕事とも言えないような簡単なお使い。ギルドへの客を迎えに行って欲しいというものだった。
突っぱねようとも思ったが、拾ってくれた幹部にはやはりまだまだ敵わないのが現状だ。
「どないな奴やっちゅーねん」
人を迎えに行くという仕事は、あのギルドの中では一番自分が不向きだと言うのは重々承知している。
ギルド内、はたまたこの冒険者の多い街であっても、ハーフエルフは悪い意味で目を引くのだ。自分を知る人物ならばまだいい。そうでなくては悪目立ちしすぎる自分は相手が嫌がるだけのような気がするのだが。
「ほんま邪魔くさいわぁ」
迎えに行く相手がどんな用向きでわざわざ盗賊ギルドに来るのかなんて知らない。
公認として起つ盗賊ギルドだからとて、その本質は明るいものではない。そんなところに頼ろうと言うのだ。どうせ後ろ暗い何かがあるに違いない。
あの幹部の考えること、あまり迎え入れたくない相手への意趣返しとして、せいぜい目立たせようって腹づもりなんだろう。
そんなことに自分を使うな、と言えないのは自分だってその立場なら同じようなことを考えるから、とは思いたくないが。



「さて・・・と?」
相手の特徴は聞いていない。行って解れ、と言われた。
指定された場所は街の中心の広場の像の前。あそこには市が立つこともありいつでも人通りが多い。それを「解れ」とはほとほと人使いが荒い。
大きな街なだけあって自分を知らない連中も少なくない。相変わらずの視線をもろともせず、シゲは自分が解るらしい相手を物色し始めた。

だがそれはすぐに中断されることになる。
視線が、いつもより少ないことに気付いたからだ。
周りが慣れたわけではなく、どこかに分散されているような。
それはどこだ、とシゲは神経を研ぎ澄ます。
自分を見ない視線を追う。一人、また一人と眺めやって交差するそこには。
「・・・あー!なんやあんた!この街に来るんやったん?!」
「お前は」
彼を見つけてその理由はすぐに解った。
異質なものがもう一人。自分と同じく隠そうともしていないハーフエルフ。
そうじゃなくても珍しいハーフエルフが二人もいればそりゃ視線も分散されるはずだ。
「はよ言いなや。俺ら薄情もんになってまったやないか」
「ここまでの道筋は知っていた。同行者は必要ない」
「そないな冷たいこと言わんでもえぇやろ」
もっとも、現在の視線は二人に集中しているため倍増しているような感覚まであるが、悪目立ちしていることを承知で、シゲは彼に話しかける。
「せや、あんときはほんまおおきに。助かったわ」
「別に構わん」
「今なにしとるん?この街初めてやんな?宿はもう決めたん?」
「・・・」
彼の視線は通りの外を向き、シゲからは離されたままだった。何かを探しているのか、何度も左右を往復している。
「なんや、つれないなぁ」
はしゃいでいたわけではない、と思う。
いくら同じハーフエルフだとは言え、警戒を忘れるようではギルド幹部のお気に入りなどやっていられない。
だが初めて会ったときから、面白そうな奴だと思ったのも確かなのだ。
「おんなし半分同士やないか。当分ここにおんのやろ?仲良うしとって損はないやろ」「・・・お前の言う「半分」だからと馴れ合う必要はない、が」
初めて彼はシゲの正面を向いた。
真っ直ぐな眼だ。シゲは微かに眼を細める。
何を面白いと思ったのかはすぐに解った。
そう多くの「半端者」に会ったことはないが、明らかに彼はその中でも異質だった。
不遇な半生を持つのが多い自分たちにしてこの眼は。

面白い。

「・・・お前、シーフか?」
シゲは問われて意識を外に戻した。
「あ?・・・せやね、みたまんま」
動きやすい格好と腰につけたツール、何本かのダガーは典型的なシーフの姿だ。
腕を広げてみせると、彼はしたりと肯いた。
「ふむ。では行くぞ」
「は?な、なんやん?」
そう言う間にも既に歩き始めた彼に、シゲは慌てて足を合わせる。
「お前ではないのか。ならば俺はまだ待たねばならんのだが」
人の目を掻き分け並び歩きながら、シゲはやっと納得した。
「・・・いや、俺で多分あっとる」
くそ親父、と罵りたくなるのは仕方がないだろう。
確かに自分が一番警戒を持たれないのかもしれないが。
二人も集まったら悪目立ちなんてものじゃないのも予想は付くはずだ。
自分はまだともかくとして、これからこの街を当分の拠点とするだろう彼にはやりにくいことになるのではないか。
だが。
「どうした?案内役ではないのか?」
きっと彼はそんなことは気にしないのだろう。
どんな知り合いかは知らない。
しかし彼の性格を読んでいることは確かだ。
その上で自分を迎え役にしたということは。
「あっとるあっとる。ほな当分の間よろしゅうな」
当分、がどこに掛かるかは、きっとこれから解ることだろう。



彼を依頼どおり真正面から送り届けたあと、それなりに居心地の良いギルドを離れて。
シゲはあることに思い当たる。
「ん?」
そういえば自分は彼の名前も聞いていないのではないだろうか。
こちらの名前とて伝えてはいない。
思わぬ失態に頭を抱えようとするが、シゲはすぐに立ち直る。
どうせあんにゃろが自分に合わせるつもりの客だったのだ。
しばらくの間付き合うことになりそうな彼だ、まだ借りは返しきられていないと押せば、名前と宿くらいは教えてもらえるだろう。こっちの名前だって教えるくらいのことはしていて欲しいものだ。
これはどう考えたって仕組まれたものであったが。
だがシゲは悪い気はしなかった。
詫びのつもりかそれともただ甘やかされているだけか。
多分後者だろうことは思い当たりつつ、シゲはあえて前者を選ぶことにした。






This Edition : 200312140402




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