| 夜の子守唄 |
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焚き火の爆ぜる音で目を覚ました。 見上げる空は未だ暗い。ここを発つにももう少しの時を必要とするだろう。 簡単なトラップは張ってある。 彼の魔法も自分達の姿を巧妙に隠しているはずだ。 パチパチッパチ それでもなお、火の奥にみえる彼は先刻眠りに落ちる前に見定めた姿のままだった。 「・・・交代しよう」 決めていたわけではないが今はそうであったと思わせるべきだ。 戦士は身を起こし肩に掛かった布を膝に乗せる。 「別に構わん。寝ていろ」 暗に眠れと言っても彼は聞こうとしない。 長旅においては休息も必要事項のうちだ。 寝入った自分に恥じるものはないが、だがそう言われたからと言ってもう一度寝ようとは思わない。 火をただ見つめる彼と同じものが見えないものか、そう有り得ないことを考えて、戦士もまた火を眺める。 ぱちぱち 赤と橙と黒。 爆ぜる焚き火にはそれしか認められない。 彼の目に映っているのは果たしてなにものか。 「少し眠れ。明日が辛いぞ」 彼をとらえるものが何であるか。 聞く気はない。 「問題ない。自分の体調は把握している」 ただそれが置いてきたものへの感傷であることを戦士は願う。 願いながら、そこに触れることはなく。 息をつき、戦士は膝に置いた布を手に彼の横へと移動した。 それでも動かない彼の肩を引き寄せ、僅かに弛緩した体にその布をかけてやる。 「眠れ」 彼の両の瞳を右手で覆い、左手は彼の背を緩やかに撫ぜる。 子守唄は歌えない。 しばしの温もりを貸し与えるだけ。 それでも彼は少しずつ呼吸を深くする。 眠るわけではないだろう。身体が要求する休息に甘んじただけだと解っていても。 「眠れ」 もう一度、戦士は呟いた。 ぱちぱち… 自分の声が、この音が。 彼にとっての子守唄の代わりになるように。 彼に聞こえる子守唄を与えられる誰かが現れるように。 焚き火の爆ぜる音だけを、聞いていた。 END This Edition : 200402222318 |
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