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「…彼を、思い出したい」 渋沢ははっきりと告げた。 彼の声は心底愉快そうに揺れる。 「ほう…今尚思い出せないのに?」 迷いがないと言えば嘘になる。 彼の言うとおり、本当は思い出したくないのではないか。 思い出しても辛い何かがあるだけではないのか。 「それでも」 思い出さないことには始まらない。 どんな後悔が待っていたとしても、もうこんな胸の疼きは沢山だ。 「では望め。願え」 桜がざわめいた。 「どんな矛盾をも飲み込んで、桜は全てを叶えるだろう」 風が吹く。 桜が舞う。 「頼むから…俺に彼を思い出させてくれ!」 ひとかけらが、渋沢の頬を優しく撫ぜた。 ぱりんと。 どこかで何かが割れる音が聞こえた。 ── から楽しいのさ これは自分の声。 いつの頃だろう。 ── い俺には難しいな ── そうかな? そんなことない。 今は気付かないだけで、絶対に誰かが君を見ているよ。 ── で写しては意味が無いぞ そうだ、これはあの写真を写したとき。 ── 現像は俺が出す あまりにも情けない顔をしていると言われるからカメラを取り上げて。 ── 同じチームだな、よろしく ── すぐにお前のポジションを奪う。覚悟していろ ── …偵察か? ── 君の真似、とは言わないけど。試合、頑張ってくれ ── 君がこの合宿にも参加しているとはね ── まずいのか? ── …すごく、怖いよ ── ここならいいのか? ── いや…そこもどうかな ── お前は、俺が怖くないのか? ── 何で?怖くないよ 今まで何故思い出せなかったのか。 それが不思議なほど頭の中に彼の姿が浮かび上がってくる。 そこにどんな後悔があるのか。 渋沢は嬉しくなって目を細める。 そう。 ── 俺が人ではないと言ったらどうする? ── ……難しい仮定だけど、どうもしないよ。 ── 何故だ? ── 確かに俺は君が人かどうかを確認しなかったけど…それだけだろ? それがどんな記憶であっても。 ── 君は何も隠してはいなくて、人じゃないって君が今の君なら、俺にはなんの問題は無いよ ── ……そうか ── ……不破くん? ── では、俺は願おう それが、どんなに辛い記憶であっても。 ── 誰が思い出そうと、お前だけは俺を覚えているな 渋沢は、それが、嬉しかった。 |