第五話「やっぱり」




藤代を見つけるのは案外と簡単だった。

部屋には不在だったが、テレビの置いてある娯楽室を覗けば、本当は持ち込み禁止のはずのゲームで遊んでいる後ろ姿があった。
高等部からは小さいテレビが部屋についているのだからせめてそっちでやれと注意したこともあったが、「やっぱ格ゲーは大画面でステレオで!」と力説されてしまった。

いくら雨だからといってあんまり羽目は外してくれるなよ…。
そう思いながら、渋沢はそっと藤代と対戦相手の後ろに近づき。

「こら!お前ら!!」
「うわぁっ!」

よほど集中していたのだろうか、二人は文字通り飛び上がった。
画面ではコントロールのミスでもあったのか、男が一人倒れている。

「あ、あぶな…!」
「ちっくしょうっ!もう少しでやっと藤代に勝てると思ったのにー!」
「お前ら…。まず言うのはそこか?」

呆れながら溜息を付くと、二人は恐る恐る振り向いてすぐに安堵の表情を浮かべた。
「なんだー。渋沢センパイかー」
「てっきり寮監かと…」
「寮監の先生に報告されたくなかったらさっさと片付けろ」
「はーい」
渋々といった返事ではあったが、二人は素直に片付け始めた。
小声で「続きは後で…」などと言い合っているが、それは聞こえなかった振りをしてやって、渋沢はそそくさ出て行こうとした藤代を捕まえる。
「藤代、ちょっと話があるんだがいいか?」
「なんすか?体育館裏は雨降ってるからいやっすよ」
「何だ?それは」
「えー。センパイから生意気な後輩を呼び出す場所と言ったらそこでしょ?」
「そういう意味でお前を呼ぶんだったら3年前にとっくにしてるさ」
「ひどっ!」
かれこれ3年、1年は高等部と中等部で分かれてはいたが、ほぼレギュラーポジションでの付き合いがあるのだから気楽なもので。
もう一人はどうも萎縮するところがあるのだろうか、渋沢と藤代を何度か見比べると、こちらは後輩らしくぺこりと頭を下げて走っていった。

「話って?」
「あぁ…」
話をしようとも、雨で皆時間を持て余しているのか、娯楽室にはそこそこ人が溢れている。
やましい話ではないが出来ればあまり他の耳には内容を入れたくはない。
なんと言っても渋沢本人でさえ曖昧なものなのだ。
部屋に戻ってもいいが、階を上がるのも面倒。
渋沢は目で合図するとまずは娯楽室を出た。藤代も流石雰囲気で真剣な話と読み取ったのか、文句も言わずについてくる。

二人はまだ時間には早い、食堂に入った。
そこにも何人かまったりとしている連中がいたが、離れて座ってしまえばそんなに声も聞こえないだけの広さがある。なるべく端の方に席を陣取って、渋沢はとりあえず手に持っていた本をテーブルの上に置いた。
「で、キャプテン。なんすか、それ?」
「キャプテンじゃないって言ってるだろう」
「じゃあ次期キャプテン」
悪びれた様子もなく笑う藤代に、今はそれ以上構うときではないと片眉を吊り上げるだけに留め、渋沢は本の間から例の写真を取り出す。
「ちょっとこれを見てくれ」
「あー、懐かしい!いつのときの写真っすか?」
手渡せば藤代は嬉しそうにそれらを見始めた。
渋沢は何も言わない。
まず反応が見たかった。
「俺が中二?中三?や、この面子なら中二っすよね。だってキャプテンまだ若いし!」
「一言多い」
「あれー?なんか…」

そう、反応が見たかった。
だが一枚ずつ丁寧に見ていて、その一枚にたどり着いた藤代の反応に、渋沢は思わず慌てた。

「藤代…?!」
「え、あ。す、すみません。なんかこの桜見てたら…」

たった一筋ではあったが。

藤代も慌てて目をこする。
本人も何故涙が出たのか、解らないといった風に上を向いた。

そうして珍しく照れ笑いを浮かべた藤代は、正面に顔を戻し写真を渋沢に押し返す。
「で。いつ撮った写真でしたっけ?」
「いつか覚えてるか?」
「やだなー。キャプテン俺が記憶力ないの知ってるくせに」
言いながらも思い出そうとしているのか、すっと眉間を寄せた藤代は桜の写真だけを避けるようにもう一度眺めなおしていた。
「……これ…撮りました、よね?」
しきりに首を傾げながら藤代は伺うように渋沢を見る。
「え?だって、現にあるし。合成…なわけないか。キャプテン携帯もまともに使えないんだから」
だから一言多い、なんて言葉はぐっと我慢して、渋沢は藤代に肯く。
「……本当に?俺が忘れただけじゃなくて?」
「俺にも記憶にないんだ」
「キャプテンももう年だからとか?」
「いい加減怒るぞ?」
にっこり笑ってやると藤代は慌てて写真に視線を戻した。

やはりあえて避けていたのか、恐る恐るながら桜も今度は手にとって。

「……だって、やっぱり」

そう呟いたその時。













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