第七話「違い」 -前-




「とりあえず、桜が見えるのは俺たちだけかって確認してみません?」

名案、と藤代はあっさりと言って立ち上がった。

確かに藤代に見せたことで、また他の人間に見られたことで事態は変わった。
人に確認してもらうのもひとつの手なのかもしれない。

「じゃあ俺ちょっと聞き込み行ってきますんで写真貸してくださいね」
「あぁ、俺は他の連中に聞いてみよう」

渋沢は藤代に集合写真の一枚を渡した。
自分ももう一枚の集合した写真。

桜だけの写真と自分と桜が写る写真は、本の間に挿んだ。




藤代とはまた後で落ち合うことを約束し、写っている連中の一人、まずは三上を探すことにした。

外出しているのならまだ戻っている可能性は低いが、どうやらそうではなかったらしい。
試しに近藤の部屋を覗いてみると、何故か人の部屋でだらりと寛いでいる三上を見つけた。

「渋沢?なんか用?」
「二人ともちょっといいか?」
「んだよ」
「俺にも?」

雑誌を手眺めていた三上が億劫そうに顔を上げる。ここに来るときは大抵三上に用があるときだったので、自分にも用があると言われ近藤は不思議そうだ。
渋沢は手にしていた写真を二人に差し出した。
「ちょっとこれを見てくれないか?」
「懐かしいもん持ってんな」
「へぇ…。お前らそんなに仲良かったんだ?」
近藤は何度か対戦したことのある桜上水のことを少しは知っている。そのメンバーも一緒に写っている写真に、何度か目を瞬かせた。
「何か思い当たることはあるか?」
「いつのだよ。俺は撮った記憶ねぇぞ」
三上も渋沢や藤代と同じ感想を持ったようだ。懐かしいと言いながら記憶のない自分に首を傾げる。
ん?…このチビがいるってことは中三か?」
「あぁ、三上ちゃんが俺を全然構ってくれなかった時期ね」
「うっせ」
蹴りを入れようとする三上の足を軽くよけながら、近藤は興味深げに写真を眺めた。
「で、どれ?」
「あぁ?何がだよ」
「お前が構い甲斐のある奴がいるって言ってただろ。ここにいるんじゃないの?」
そんなことを言っていたのか、と渋沢は思わず笑みを零す。
あのときはあんなに乗り気でない風を装っていたのに。
結局は三上も楽しんでいたのだと思いがけず暴露されて、三上は盛大に顔を顰めた。
「んなこと言ってねぇよ。馬鹿」
「照れるな照れるな」

渋沢の意識に何かが掠めたが、それはすぐに形を無くす。
もう一度探ろうとしたそのとき、まだ続く三上と近藤の会話に注目を攫われた。

「この4人うちどれが三上ちゃんのお気に入りかなぁ?」
「はぁ?テメェ頭だけじゃなく目ぇいかれたのかよ」
「4人、に、見えるのか?」

それこそが聞きたいところだ。
渋沢は知らず声に力が入る。
三上は今の発言からも見えていない可能性が高い。

「へ?いや…」
三上の怪訝そうな声と渋沢の真剣な表情に近藤は圧され気味に視線を泳がす。
「どうなんだ?」
「ってか、渋沢も何言ってんだよ。どう見たってこりゃ…」

ふいに二人は黙り。

「……いや、3人だ。あれ?さっき4人いたと思ったのにな…」
近藤は自分の言葉を訂正して。
「…なんで、この3人なんだ…?」
三上は逆にそれを疑った。

「なんかおかしくねぇ?」
「何が?桜を囲んだ記念撮影だろ?」
「つか、いねぇし」
「誰が」
「そいつが」

言いながらどんどん三上の表情は固くなる。

「渋沢、他に写真ねぇのかよ」
「もう何枚かはあるが」
「見せろ」

何故三上はおかしいとすぐに気付けたのか。
自分と三上との違いはなんなのか、解らないまま渋沢は本に挿んだ全てを渡す。
「あと1枚は藤代が持ってるんだ」
「それは後でいい。とりあえずトータルすりゃ全員写ってんだろ?」
「予定ではな」
「何だよ、心霊写真かなんかなのか?」
「それならまだいいけどな…」
近藤の問いに渋沢は苦笑する。
桜にしか見えない人間がいて、それが心霊写真だと割り切れるならどんなにいいものか。
そんな人間がいるのかどうかも、自分たちは覚えていない。
見えるのは桜だけ。

それは三上も同じらしく。

「……何かあんだな?」

疑問形ながら結論であるかのように問う。

「そうだな。近藤のように4人だと言う人がいるのを、藤代が確認に行っている」
「マジかよ……」

三上は天を仰いだ。
先ほどの藤代のような理由ではないだろう。

三上の顔にあるのは、怒りだった。











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