第七話「違い」-中-




「……で」
三上が渋沢にまた視線を合わせたときには、もう怒りの表情はなかった。
何かを思い出されるような無表情。
試合で集中しているときに見られるそれに渋沢も気を引き締める。
こうなったときの三上は頼りがいがあるとは本人に伝えたことはなかったが。
渋沢が何年も前から認めてきた司令塔は、その期待に応えるかのようにひとつの推論をはじき出したようだ。

「水野の野郎には見せたのか?」
「いや、まだ捕まっていないんだが…」
うまくいけば同学年の藤代が見つけているだろうが。
そう伝えると三上は呆れたように息をつく。
「ばっか。俺より馬鹿代より水野だろうよ」
そこまで言って三上は一度言葉を切った。
みれば近藤が好奇心の目で二人を眺めている。

それはそうだろう。どう考えたって、この写真は、そして二人とも何かがおかしいのだから。

「場所変えんぞ。近藤、また後でな」
「おー。また今度〜」

ひらりと手を振られ、渋沢と三上は近藤の部屋を出た。

こんなとき、あまり人付き合いの良くないと言われる三上の意外な交友関係を思い知る。
比べるものではないはずだが、武蔵森に入学した当時から学年代表などをやっていた自分は、責任感もあってか広いが案外と浅い関係しか作り上げることが出来ないでいた。
悪友とも親友とも付かない相手としては三上が挙げられるし、三上も少しはそう思ってくれているだろう。
藤代はともすれば悪目立ちする屈託さと才能でもって向こうから勝手に飛びついてきた。
だが一緒につるんでいた時期があったはずの笠井や間宮はやはり後輩としての意識のほうが高くなってしまう。
そのとき出会った水野や藤村ともいい関係を築いてはいてもそれは同じ。風祭は今はドイツにいるのだからあまり会話もあるわけがなく。
レギュラー陣たちともそこそこの関係を保っているつもりではあるが、あのように、気に掛かることがあってもあっさりと引いてくれるような、一種信頼を感じられるような友人といえば。
この中学のときに一緒に写真を撮るような付き合いがあった、二人くらい。

「よくすぐ気付いたな。俺も藤代も結構時間が掛かったのに」
「そりゃな」
「…近藤に、このときの話もしてたんだな」
「ん?あぁ、まぁな」

三上はどこを目指すのか、迷いなく歩くのに付いていきながら渋沢が問い掛ければあっさりとした返事が返ってくる。
「別に変なこた話してねぇよ。話したことっていや、テメェがでれっとした顔してたってことくらいだ」
「……十分変なことだろう……」
自分はそんなに締まらない顔をしていたのだろうかと渋沢が少し過去に呆れようとしたとき。
「そこだ」
「ん?」
三上はこれ以上の会話を打ち切り、ここを目指していたのか守衛室のドアをノックした。
名前を名乗ると守衛はあっさりとドアを開けてくれる。
小声で何かを頼んでいる三上はさっき渋沢が思った「人付き合いのよさ」とはかけ離れたところにいて。
意外と知らなかっただけなのかとまた自分に呆れそうになりながら、話がついた三上に中に入るよう促された。
「渋沢君も大変だね」
「え?えぇ…」
一体何を話したのか、しみじみと言われて曖昧に返事をする。

三上は慣れたように館内放送用のマイクを手にとった。守衛もそれに何も言わない。
つけた話はこれだったのかと思う間もなく。

「三年の先輩ガタお耳汚し失礼しまっす。……1年藤代及び水野!至急2年渋沢の部屋まで集合!」

まさしく呆れる渋沢に、三上はしたりと口元を吊り上げるだけだった。














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