第七話「違い」-後-




場所は変わって渋沢の部屋。

「勘弁してくださいよ…。何やらかしたって散々言われてもう…」
放送を聞いてすぐに駆けつけたんだろう、水野は二人が戻る頃には既に渋沢の部屋の前に来ていた。
呼び出したのは三上だったが場所は渋沢の部屋だ。それだけで効果があるのか、そこで待っている間中、2年のフロアで水野にしてみれば先輩たちにからかわれたらしい。
「水野のくせに文句言うんじゃねぇよ」
今では水野と対峙することにも慣れた三上はそれでも顰め面で水野を小突く。
どこのガキ大将だ、とは言わず渋沢は自室の鍵を開けた。
「待たせて悪かったな。とりあえず入ってくれ」
「あ、いえ…。呼び出したのは三上サンですし」
「それは俺に謝れってことか?あぁ?」
「どうしてこの会話でそう聞こえるんでしょうかね…」
こんなやり取りを出来るようになったのもあの写真の頃からだったかと思い起こしながら、二人を部屋に入れる。
片付けが途中になってはいたが、元々さほど広げていたわけでもなく。
二人と、あとから来るだろうもう一人を入れても多少窮屈ではあるが問題もないだろう。
三上に早々机の椅子を取られて苦笑しながら、何故呼ばれたのか全く解っていないだろう水野に、まず写真を見せることにした。



「懐かしいですね」
やはりと言ってもいいのか、水野の反応も他の連中とは変わらなかった。
同じ学校の高等部へ上がった自分たちとは違い、散り散りとなった中学の友人たちに思うところもあるんだろう。「懐かしい」の言葉にも重みを感じる。
「この写真が何か…?」
「あぁ、いや…」
「……馬鹿か、テメェは」
ともすればそのまま終わってしまいそうな心持ちになりかけたところを、三上がギシリと椅子を鳴らすことで遮った。

渋沢は思わず眉を顰める。
何か得体のしれない力にでも阻まれているんだろうか。
ホラーやミステリーは得意じゃないが、今まさにそんな写真があるのだからそこも考慮に入れなければならないのだけど。

三上は渋沢を心許無いと判断したのか、そのまま言葉を続けた。
「水野、中2ん時のテメェらの部のメンバー全員言えるか?」
「馬鹿にしてんですか。一応これでも部長だったんですからそのくらい言えますよ」

それにしては唐突な。
三上の質問は写真とは関係のないものだった。

「言ってみろよ」
「言ったって三上サンには解らないでしょう」
「いいから言ってみろってんだ」
「…ったく…何なんですか一体…」
ぶつぶつと、それでも水野は名前を挙げていく。
聞いた名前ももちろんあるが、正直自分でも全員の顔と名前を一致させることは出来ない。
渋沢にも三上が何を言わんとしているのか見えず。
「…で、俺、です。これが何なんですか?」
「それで全員なんだな?」
「間違いませんよ。しつこいな」
どうしてもお互いが喧嘩腰になってしまうのはこの際仕方がない。
「じゃあ俺たちがつるんでた時期ってのは覚えてるよな?そのチビも含めて」
「…えぇ、そりゃ。これに写ってる俺たち…3人と、そっちのメンバーとだったら中2のときしかないでしょう」
三上の思惑が読めない渋沢は二人の会話を静観するしかない。
「もひとつ聞くがテメェ他のダチにこのこと話したことあったか?」
「はぁ?!何でそんなことべらべら喋んなきゃいけないんですか。あるわけないでしょうが」
「はっ、そうだよな。テメェ、ダチ少ないだろ」
「どういう意味ですか!俺にだって友人くらい…っ」
水野が声を荒げる。
桜上水は打倒武蔵森を掲げてきていたんだから、悪いことではないがあまりおおっぴらにするものでもないと思っていたんだろう。
いくらなんでも言いすぎだと止めようとしたとき。

「そこだ」

三上は、先程と同じく、今度は水野を遮った。
「そこが違うんだよ、テメェらと俺は」
さっきのも三上はそう言いたかったんだろうか。
自分も含まれる発言に、渋沢は口を開く。
「どう違うと言うんだ?俺と水野は確かに他には話さなかったかもしれないが、それが友人の少なさと関係するもんでもないだろう」
「何ダチの多い少ないを張り合ってんだ、馬鹿」
呆れたように鼻を鳴らし、三上は肩をすくめた。
「あの馬鹿代はどうだか知らねぇが、テメェら誰にも言ってねぇんだろ?」
「言うことでもないですから」
「むしろお前が近藤にそんな話をしていたほうに驚いたんだが」
「俺だってダチに聞かれりゃ答えるんだよ」

だから気付いたんだ…、そう三上は言う。

「どこ行ってた、と聞かれりゃやましいことでもない限り普通喋るだろ。で、話が進んでくと一緒にいた連中のことになる」
三上が今覚えているのは写真に写るメンバーのことだけ。
桜…なのか人間なのか、その人物のことは記憶になくても。
「渋沢がでれっとしてたとか藤代がはしゃぎすぎてうるせぇとか、近藤に話したことを覚えてるんだよな。で、俺が構い甲斐のある奴がいるって言ったことも。それは近藤も言ってたんだから思い違いじゃねぇだろ」
ただ。
「ただ、じゃあそいつが誰なのか、何で渋沢がだらしない顔になったのか、藤代が盛大に馬鹿だったのはなんでか…ってのを考えるとまったく思い出せねぇ…。こりゃおかしいって思うだろ」

そう言えば。
桜の人物を人物として捉えたのは、高等部から入部した先輩だった。桜上水は当時他の学校からそれほど注目されていなかったから、よほどのことがない限りメンバーの顔や名前は覚えていないだろう。
近藤は中学からいるが、きっとそこまで係わり合いはないはずだ。自分が考えれば考えるほど何かに意識を撹拌されたように、最初見えたはずの「意識しない人物」が「見覚えのある人間」に変わった途端、記憶が摩り替わったのだとしたら。

三上はそこまで話して一息ついた。
「藤代がなんか聞きに言ってんだろ?」
「……あぁ」
至急と呼び出したわりになかなかやってこない藤代は、誰が桜に見えるのか聞いてくると言っていた。
その推測が正しいとしたら、結果は自ずとみえてくる。

水野は写真を見つめたまま動かなかった。
ただ何度も反芻するように、さっきも挙げていたメンバーを呟く。
そして。
「…駄目だ、一人足りない」
「え?」
「渋沢さんも書いたことありますよね。学校に提出する部員名簿」
「あぁ」
顔を上げた水野もなにか核心を手に入れたようだった。
「俺の記憶の部員と何度も書類に書いた部員数が合わないんです。それに」
さっき気付けなかったのが悔しいのか少しだけ眉を寄せながら。

「レギュラーを挙げていっても、どうしても、GKが足りない」














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