第十四話「満開の下」-後-




── 彼

── 彼、とは?

── 彼らの知る彼のこと

── では、彼は

── あれは



桜が一斉に呼応し始めた。
あまりの賑やかさに渋沢は思わず耳を塞ごうとして、やめた。
その行動にきっと意味はない。
まるで心に語りかけるような、まるで自分の心の声のような囁き。

「不破、だ。不破を出せ」

三上が凛と叫ぶ。



── 不破

── 不破、とは?

── 彼らの知る彼のこと

── さくらのもりが与えた仮初めの名前

── では、彼は

── あれは



「不破は不破だよ!俺たちの知ってる、一緒に居た不破!絶対見つけなきゃいけないって!」

藤代は必死に声を絞り出した。



── 見つけねば

── だれを?

── 彼を?

── さくらのもりに眠る

── あれ、を



彼はゆっくりと裾を振るった。
舞い上がったのは桜のかけら。
一瞬それに視界を奪われ。





次に目に飛び込んできたのは、桜の木々の満開の下の、小さな桜色の水辺だった。
足元も水に浸されている。
桜色に見えたのは、その一面を桜のかけらで覆い尽くされていたから。
冷たくはない。
程よい水温はただ足元をひたしていく。

一歩踏み出せば微かな波紋が波となって辺りに響き渡り。

それを遮るように、中心に、横たわっているのは。



「何事もないよ」

背後から聞こえるのは彼の声か。

「お前たちの思う何事も存在はしない」

水面を揺らすのは自分たちの粟立てる足音ばかりで。

「舞い散るかけらがそこにあることに人は意味を持たぬように」

跳ねる桜の花びらだけが。

「そのひとかけがそこにあったことを忘れる、ただそれだけのこと」





「不破!」





彼、は目覚めなかった。

息を飲み、彼、を見下ろす、人、の元で。

目覚めることなく。

その口はただひとつの名を形作った。











質問 彼の唱えた名前は?

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藤代 17.1% (6票/17.1%)

三上 34.3% (12票/34.3%)

風祭 2.9% (1票/2.9%)

水野 0.0% (0票/0.0%)

佐藤 8.6% (3票/8.6%)

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素材提供:空に咲く花 さま