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し ぶ さ わ と。 彼、は、そう、形作った。 「……え…?」 意外、と言うのも変な話かもしれない。 今まで起こってきたことは全て想像の、常識の範囲外。 ここで今更驚くのはおかしいとは思っても。 彼のことを思い出せない自分が。 呼ばれることへの。 言うなれば、罪悪感。 「……あぁ、そうか……」 二人のうちどちらの声か。 何かを納得した、響きだった。 「……夢でもみてんのかな……」 藤代が、彼にしては穏やかに、静かに呟いた。 「こっちの気も知らねぇで暢気なもんだ」 三上は少し呆れているようだ。 桜がざわめく。 まるで彼に応えるように。 まるで彼が答えるように。 「桜が綻び始めている」 これは彼の人の声。 「さくらのもりは夢を見ない」 詠うような声。 「ただ綻びる桜に感応しているだけ」 そして。 「思い出せないお前は何を思うかな?」 どこかからかいを含んだ声。 「…え?」 藤代が弾かれたように顔を上げた。慌てて振り向き、だがそこに彼の人がいないことにまた前を向く。 「思い出せないって…誰が?」 「不破が…じゃ、ねぇよな」 三上も訝しげに眉を顰めた。 集まる視線。 二人からだけじゃない。 そこら中にある桜からも責めるように見つめられている気がして。 渋沢は息を飲み込んだ。 ここで正直に答えていいものか。 自分だけが彼を思い出せていない事実を。 だが、それは既に表情で読み取られていたようだ。 藤代が信じられないとでも言うように目を見開く。三上は忌々しげに舌打ちした。 一体自分はどんな顔をしているのか。 情けない表情か、それとも後ろめたさを抱いたものか。 「…なんだよ、そりゃ…」 「……すまん。隠すつもりじゃなかったんだが……」 「そうじゃないでしょ!何でこともあろうにキャプテンが思い出せないんすか!!」 視線と、言葉で責められても。 渋沢には俯く以外の手段が解らない。 思い出せないのは自分のせいなのか、それすらも解らなくて、ここまで彼を追ってきた。 彼は自分を呼んでくれたのに。 やはり彼の声は、目の前にあってもおぼろげなまま。 形作られた唇だけでは、何一つ。 「キャプテンが思い出さなくってどうするんです!不破は…!」 「藤代、やめろ。それはテメェが言っていいもんじゃねぇ」 思い出せ。と、二人が訴える。 思い出せるのならば、思い出してもいいのならば、とっくにそうしている。 「…それでも、どうしても、思い出せないんだ…」 一番憤りたいのは、自分なのに。 「でも!だって!それじゃあ!」 藤代はどう言葉を繋げればいいのか解らないか、ただ悲鳴のような声を上げる。 足元の水がそれにあわせて波立った。 誰かの、藤代の、三上の、渋沢の心を示すかのように。 不思議と彼の周りだけは穏やかなまま。 静かに。 穏やかに。 周りの動揺など漣でしかないと。 心乱す自分たちを諭す。 そんな彼に渋沢は。 上の投票画面がうまく表示されない方はこちらをクリックしてください(別窓開きます) |